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ABC通信

ABC通信(2009.9.1) 第692号

私たちの美しさを取り戻す美医学は、人の自然ななりわいと対立せず少しの変化で大きな喜びを与えることを基本としています。美学をフリー百科事典『ウィキペディア』で引くと「美や芸術あるいは趣味の問題を扱う哲学である」と記載、その語義は「 aesthetica 」という言葉で表現され、ギリシア語 aisthesis の形容詞 aisthtike をラテン語化した二つの語義を持ちます。一つ目は「感性的なるもの」、二つ目は、「学問」が合わさったもので「感性学」と解釈されています。日本人の美学は、個性の強さを中心としている西欧に比べ、香道・茶道・華道や建築、庭園、伝統工芸品などに見られるように、むしろ自然に対立せず溶け込むことへの素朴な同調が好まれます。最近では、医療技術も進歩し患者様の美医学に対する意識は、同様の傾向にあるように感じます。

 

人は時に大胆で大きな変化も必要ですが、私たちは本来持っている皮膚のシワのラインや肌質など自然な老化に極端に逆らわずに若々しさを取り戻し、維持する方法を独自の「感性学」をもって患者様に提案しています。微妙なバランス調整は、生まれ持った「感性」や「勘」、確かな「技術」をもって、一部位を注視するのではなく全体的なバランスを見極め施術することが肝要となります。最近では、自然ななりわいと対立せず自己再生能力を高める作用を有するものとして、再生医療の成長因子(グロースファクター)に注目しています。(成長因子は、頭皮や皮膚表面から浸透すると女性・男性の毛髪成長や肌細胞の傷みを回復させる効果のある新しい注射薬です。)

 

美医学について深く考えるようになった人生の第一転換期は、藤田保健衛生大学医学部の形成外科臨床実習、第二転換期は妻との出会い、どちらにも独特の感性と美学を直感し迷うことはありませんでした。

 

医学部に入学してから、父親が開業外科医であった影響で漠然と外科医にはなるとは決めていたものの一般外科にはどうしても心を動かされず、姉はすでに内科を専攻していたため進むべき道を悩んでいる時期でした。何気ない気持ちで形成外科手術の見学をした瞬間に、心に強い衝撃を受けました。生後2週間の小さな赤ちゃんの口唇は約1cm、3人の形成外科医はメガネタイプの拡大鏡をかけ口唇に幾何学デザインを30分以上の時間をかけ納得いくまで何度も書き直した後、正確にメスで皮膚を切り、目に見えないような細いナイロン糸で器用に縫い合わせる姿でした。美術が得意で手先が器用であったので、独特な芸術性と繊細な医療技術に将来性を感じ、形成外科医になることをすぐに決めました。

 

形成外科は、主として機能回復とQOLの向上を目的とする専門外科系診療科の一つで、気にしている微妙な形や肌の状態を整える「美容外科・美容皮膚科」もこの分野に含まれます。形を整える美容にいつも注目が置かれますが、「できもの・ほくろ・いぼ・あざ」や「キズアト」などをレーザー治療やキレイに切り取り縫い合わせる形成外科手術、けが・やけどのキズアトを残さないように潤い療法、レーザー脱毛やメディカルエステ・オリジナルコスメでお肌のトラブルを改善するなどテリトリーは想像以上に広いのです。藤田保健衛生大学形成外科に9年間在籍し、臨床で技を磨き上げると同時に実験研究をおこない医学博士、形成外科専門医、その後にはレーザー専門医・日本臨床皮膚外科学会専門医の資格を取得しました。

 

妻との出会いは、大学病院の形成外科で助手をしている32歳の時でした。彼女は、藤田保健衛生大学医学部の5年生、当時から美に対する感性や美学は常に想像を遙かに超え最先端の考えを持ち、私自身のプライベートや仕事にも大きな影響を与えました。彼女が大学を卒業し医師免許を取得するのを待って結婚、平成9年に二人の力で医療法人桃姫メディカルを立ち上げ開業をしたのは35歳のときでした。

 

最愛の父親は、残念ながら28歳の時に私たちの結婚式や開業を見ることもなく脳出血でこの世を去っています。彼女は若くして起業意欲が高く、開業当時から夫婦であっても一人一つのクリニックを持つべきとの考えを持っていました。当時から女性医師がキャリアを持って働くことの難しさは想像以上でしたが、いつも活力あふれる彼女は、開業医として診療・出産・育児・家事を完璧に両立させつつ、平成14年に念願の名古屋ヒルトンプラザに分院を開業したのです。

 

妻の女性医師としてのキャリアをバックアップするには、夫婦二人だけで協力し合い育児、家事、診療を分担するハードなワーキングシェアの必要がありました。私は、高校生より寮生活を経験し家事や料理について全く問題ありませんでしたので、事前の取り決めもなく自然なながれでシェアすることができたと思っています。この2つの出会いにより、今日の診療スタイルが確立され「形成外科」と「皮膚科」、「男性から見た美医学」と「女性から見た美医学」とお互いの「感性」と「勘」を合わせた阿吽の呼吸の診療で、患者様にインパクトを与えることは夫婦でしかできなかったでしょう。

 

このような「感性」を磨き自分自身を高めるために、大学でのスキューバダイビングやスキー、近年では志野流香道(蜂谷なをみ先生:名古屋ABCにて)など和の道を中心に習い事をしています。また、唐の太宗の帝王学「帝王の事業の中で、創業と守成といずれが困難であろうか」から始まる「貞観政要」、人間として守るべきまた行うべき、当然のことが簡潔な言葉で記されている孔子の「論語」の熟読は、過去から現在につながる様々な解決策を知りうることができます。

 

 

 

 

 

 

新しい時代に古くから伝わる日本人の奥深い「美意識」やその道の自然と関わる「哲学」などを知ることは日常生活においても役立つことばかりです。医師となって21年、私たちの夫婦にとっての美医学は、最先端医療知識の習得は勿論のこと、今日まで先輩達から受け継がれてきた基礎知識・技術を礎とし、新旧の医療を合わせて初めて自然のなりわいと対立しない最新美治療が実践・提供できると考えています。

 

 

 

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